■掲示板に戻る■ 全部 1- 101- 最新50 ↓最後

今更ながらNW1 「非情有情」

105 大本営 [ 2009/04/07(Tue) 20:03 ]
第4回後半マスターシーン

4月19日 23時
帝国ホテルラウンジ

ショットグラスに入った液体が揺れる。
もう何回目なのだろう。
数えるのを忘れてしまったよ。

カウンターでバーボンをストレートで飲んでいた。
朝定に酌をするのはマスターでなく、美冬だけの役目。
この位の役得は目をつぶってくれるらしい。

でも今日は飲みすぎているよ
酔っているのは酒なのか、それともこの戦いの方なの?
「もう飲むのはやめようよ。ゆっくり体を休めないと」
彼が聞く耳を持たないと分かっていても、止めずにはおれなかった。

天国の暴走は当然持ち主である、朝定にも悪影響を与えている。
単身で魔王と五分に渡り合えると言われたのは、昔の話。
人の身でこの暴風を受け止めている事で自らのプラーナと能力の大半を奪われているというのに、彼は休むということを拒否し続けている。
歩む事を止めてしまったら、このまま倒れてしまうのでないかと思ってしまう。

「俺の事など気にするな」
「美冬の方こそ休んだ方がいい。お前はもう魔王では無いのだからな」

この言葉を聞くたびに魔王を辞めなければ良かったと思ってしまう。
もし辞めなければ、彼の負担をいくらかは軽減してあげられた筈なのに。

「ねぇ、こんな事はもう止めない?」
「貴方の認識は正しいと思うれど、多分誰も貴方の真意を理解できないわ」
「きっと反逆者や裏切り者として記憶されるのよ。結果として彼らがその恩恵を受けようとしても」
「今起きている危機を救った人は英雄と賞賛されるけれど、まだ起きてもいない危機を救っても誰も理解されないのに」
「評価されるのはいつも英雄で、預言者では決してないのよ?」

何度も繰り返した禅問答を再びやってしまう。
その問いに答える事が、彼を苦しめると分かっていても。
「誰も理解できなくとも構わんさ。ウィザードたるもの、人から理解や賞賛浴びるために命を賭けるんじゃない」
「それに歴史上時計の針が戻るかのごとき行為は、何度もあったさ」
「ローマ帝国崩壊後、哲学や科学に取って代わりローマ聖王庁が絶大な力を振るったようにな」
「文字通り時計の針を戻そうとした男は、恐らくいないだろうがな」
寂しそうな目で言われても説得力ないよ。

「ウィザードの誇りなんでどうでもいいじゃない! このままだと膨大なエネルギーに押しつぶされて死んでしまうわ!!」
ヒステリックに叫ばずにはいられないよ。
彼に生きて欲しい。
「ウィザードとしてその生涯貫くと、この太刀に誓ったのだ」
「天国こそ我が魂であるのだ。その太刀が俺を滅ぼそうとするなら、それも致し方ないのだ」
(風魔になろうとも、あいつにとっての助真もそうだ。侍にとって刀こそ魂であり、命そのものなのさ)
始めて会ったとき、本当に侍のようだと思った。
なんて高貴な魂なのだろうとも。

「どうせ死ぬなら剣によって死ぬ方がマシだ。こんな事では死にはしないさ」
(そうだ、早く、早く俺を倒しに来い。早くしないと本当に体が持たないぞ)
多分、彼は敗れるのだと思う。
だけど最後の瞬間まで心に居続けるのが、あの男なのが許せない。
そうだ、斗希也という名の男が憎い。
あいつが力に目覚めなければ、朝定はこんな事を考えなかったかもしれない。
あの男さえいなくなれば、彼は私に目を向けてくれる。
嫉妬の炎がとても暖かく感じられた。




←戻る 全部 次50 ↑先頭
  Name E-Mail
  

read.php ver1.4 (2001/10/6)